戦略とインテリジェンス

ijnavy.exblog.jp
ブログトップ
2013年 12月 15日

中国の戦略文化(危険な孫子の教え)

エドワード・ルトワック『自滅する中国 なぜ世界帝国になれないのか』芙蓉書房出版、2013年。

109頁「そもそもこの孫子の『兵法』という素晴らしい書物が強烈な誤解を招きやすい(というか危険ですらある)」
112頁「中国の「戦国時代/兵法の心理」の「名残り」、もしくは同一文化内の規範を異文化間の紛争に誤って応用することの「弊害」として最初に目につくのは「国際関係においては無制限にプラグマティズムを使っても良い」という前提だ。」
114頁「二つ目の「名残り」の例を挙げてみよう。中国の政府高官たちによくみられるのは「外国との間の長年にわたる未解決の紛争は、故意に危機を煽ることで解決できる」という考え方だ。」
118頁「三つ目の「名残り」は、欺瞞そのものや、欺瞞よって可能になる策略と奇襲攻撃への、過剰なまでの信奉である。」

中国の戦略文化を理解する際に参考となる内容です。
上記の内容から中国の行動パターンを端的に表すと、
①無制限なプラグマティズム(実用主義)により相手国との関係を損得勘定でとらえ、深い信頼関係を築こうとしない。②故意に危機をあおることで、相手を交渉に引きずり込もうとし、強制的に譲歩させようとする。③欺瞞を行ったうえで、奇襲攻撃を行う。
更に端的に言い換えると「損得で相手を評価し、威嚇と騙しと奇襲のテクニックで相手から利益を得ようとする」ということでしょうか。まぁそう単純なものではないとは思いますが、ただこうしてみると、防空識別圏の設定は上記②と③のパターンを実行したものとも言えそうですね。さて今後も同様のパターンで新手の策を繰り出してくるのでしょうか・・・

[PR]

# by Imperialnavy | 2013-12-15 19:04 | 戦略インテリジェンス | Comments(0)
2013年 12月 11日

アメリカの対外政策(スパイクマン)

ニコラス・J・スパイクマン『平和の地政学-アメリカ世界戦略の原点-』扶養書房出版、2008年。
(1944年に出版された本の全訳版)

129頁「地政学的な分析から考えると、アメリカは地理的に包囲されているように見える。(中略)この国の安全と独立を守るために必要なのは、ユーラシア大陸にある国家がヨーロッパとアジアで圧倒的かつ支配的な立場を獲得するのを不可能にするような対外政策の継続だ」

132頁「我々が戦っている目的の一つはユーラシア大陸のパワーの均衡にあり、我々が勝った後の目的も、そのような均衡状態の達成と維持にある。したがって、アメリカの国益はリムランド統一への動きを阻止する国家たちと、引き続き協力関係を維持していくことにある。」

アメリカの対外政策の「前提」を考える上で参考となる内容です。戦後の前方展開戦略そのものですね。ところで、この文書、戦争が終わる前に書かれています・・アメリカの戦略的思考の一端が少し分かる気がします。
[PR]

# by Imperialnavy | 2013-12-11 18:07 | 戦略インテリジェンス | Comments(0)
2013年 12月 11日

韓国は張成沢氏側近の公開処刑をいかにして把握したのか

12月5日インターネット版東亜日報(日本語版)japanese.donga.com

「北朝鮮の張成沢(チャン・ソンテク)国防副委員長失脚の根拠として提示された2人の側近が公開処刑された情報を、当局は如何にして把握したのだろうか。北朝鮮の公式発表はなかったが、安保当局はヒューミント(人的情報)とシギント(信号情報)を有機的に組み合わせて関連情報を把握した。 」「公開処刑は労働新聞や朝鮮中央通信のような対外用メディアでは一切報じられない。北朝鮮は公開処刑を隠し、北朝鮮社会の内部には広く伝えられる方法で広報する。 (中略) この時に使われる手段が「第3放送」だ。安保省庁関係者は、「第3放送は、各家庭に有線でつなげられたスピーカーで放送される。ラジオとは違って電波を使わないため、外部からの盗聴が難しい」と述べた。第3放送は平壌(ピョンヤン)だけでなく、各都市・郡・里まで結ばれており、農漁村地域ではラジオよりも発達している。 (中略) にもかかわらず安保当局が処刑事実を把握できるのは、ヒューミントがあるためだ。安保省庁当局者は、「北朝鮮住民による平凡な人的情報だけでなく、処刑執行に関与した担当者の口から粛清の事実を聞く」と述べた。粛清の対象者が助けてほしいという手紙を様々なルートで韓国政府に送ることも頻繁に起こっているという。 特に先月末、張氏の側近である李竜河(リ・ヨンハ)行政部第1副部長と張秀吉(チャン・スギル)副部長が処刑されたことは、軍情報当局のシギントでも把握された。処刑の事実を北朝鮮軍首脳部に伝える過程で、対北朝鮮盗聴が捉えたのだ。軍はこれを北朝鮮の異常動向と判断し、国家情報院と共に関連情報を集め、北朝鮮の内部動向を時々刻々追跡してきたという。」

つまり、ヒューミントと軍のシギントによって得た公開処刑に関する情報を国家情報院と協力して関連情報と照合し、国会情報委員会で報告したということでしょうか。
ちなみに韓国軍のシギント部隊については、777司令部というものがあります。777司令部は、1956年に米軍が創設した対北情報機関を前身としたものであり、存在を秘匿するため、過去、「3275部隊」、「5679部隊」と度々、その名称を変えていましたが(すべての数字を足した一桁目が必ず7になることからスリーセブン部隊と呼ばれていた。) 、現在は、777司令部として国防情報本部令に明記されています 。国防情報本部令によれば、777司令部の業務は、「各種信号情報の収集・支援及び研究に関する事項を司る」とされています。なお、韓国軍はSIGINT収集用航空機としてRC-800をベースにしたペクトゥ(白頭)を保有しており、同機によって収集した電波情報は777司令部において処理・分析されているそうです。

※777司令部参考資料:「顔色を窺う軍首脳部に対する韓哲鏞のクーデター」『新東亜(518号)』2002年11月。「対北秘密情報 真実はこれだ 韓哲鏞前777部隊長の衝撃証言」『新東亜(519号)』2002年12月。国防情報本部令(国家法令情報センターホームページ参照)。
[PR]

# by Imperialnavy | 2013-12-11 16:59 | その他 | Comments(0)
2013年 12月 06日

失敗の7要素と対処法

ロジャー・ジョージ「第8章 インテリジェンスと戦略」『戦略論 現代世界の軍事と戦争』勁草書房、2012年、262~264頁。

◆インテリジェンスの失敗の7要素
①情報収集における失敗
②分析における誤った解釈
③敵の欺瞞
④敵の情報保全
⑤情報共有の欠如
⑥政策決定者への伝達の失敗
⑦政策決定者の情報無視や怠慢

◆対処法
①情報収集の改善
②敵の欺瞞能力や欺瞞を行う動機の評価
③バイアスの自覚と分析手法の活用

いずれも過去のエントリの内容とほぼ同じです。ただ、欺瞞の問題については具体的な方法論があまりない(気休め程度ならありますが・・)ので非常に難しいと思います。ちなみにジャービスは欺瞞について「多くの場合、国家は欺まんを行う機会を差し控える。なぜなら、それらは非常に複雑であるし、あまりに多くの有効な情報を明らかにすることになりかねないからである。」(Why Intelligence Fails,2010)と述べており、そう頻繁に行われるものでもないことを示唆しています。

[PR]

# by Imperialnavy | 2013-12-06 14:24 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2013年 12月 06日

リーダーとインテリジェンスのジレンマ


Michael I. Handel “Leaders and intelligence”(Intelligence and National Security Volume 3, Issue 3, 1988, pp.4-6).

◆リーダーが教条的な場合、リーダーは新しい情報や自らの目的、方針、決定に反する情報は受け付けないだろう。逆にリーダーがあまりにオープンマインドな場合、明確なリーダーシップをとれずに頻繁に意見を変えてしまうだろう。
◆リーダーとインテリジェンスの距離が近すぎるとインテリジェンスがリーダーの方針や決定を意識し過ぎて客観性を失うだろう。逆に距離が遠すぎるとリーダーはインテリジェンスとの接触を失うだろう。
◆リーダーにアドバイスするインテリジェンスが独占的な立場にあったり、たった一つの情報源しかないと、リーダーが受けとる情報は限られたものか、バイアスがかかったものになるだろう。逆に様々なインテリジェンスがありすぎると自らのバイアスにとらわれたり経験に頼ったりするだろう。
◆生情報を求め過ぎるリーダーは、細部にまでこだわるがゆえに、自らインテリジェンスオフィサーになりきるという危険を犯すだろう。
◆多くの情報を受け流してしまうリーダーは真剣に情報から学ぶ機会を持てないだろう。逆にインテリジェンスから学ぶことに重きを置きすぎ、期待しすぎると、大事な決定を遅らせることになるだろう。

つまり、信念を持ちつつ教条的にならず、インテリジェンスと遠すぎず近すぎずの関係を保ち、適度な量の情報源を持ち、生情報にこだわりすぎず、適度にインテリジェンスから学ぶリーダーがベストということなんでしょう。言うは易く行うは難しですが・・

[PR]

# by Imperialnavy | 2013-12-06 00:43 | リーダーとインテリジェンス | Comments(0)