戦略とインテリジェンス

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2014年 01月 29日

イラン革命の予測になぜ失敗したのか

Robert Jervis,Why Intelligence Fails Lessons from the Iranian Revolution and the Iraq War, Cornell University Press, 2010,pp.15~32,108.

◆要求・収集関連
・SAVAKからイラン国内の政治や反政府勢力の情報は提供されていなかった。
・イランの国内政治はCIA作戦部の優先順位のリストには無かった。
・出回っていたホメイニ師の発言を収めたカセットテープすら収集しなかった。

◆分析関連
・CIAにイランの政治と経済の分析官はそれぞれ2名ずつしかいなかった。
・外部の学者や専門家との意見交換もほとんどなかった。
・報告文書の内容は記述的で、多くの事実が述べられていたにすぎなかった。
・CIAの分析は社会科学というよりも、ジャーナリスティックな内容であった。

◆四つの主要なエラー(マインドセット)
①「危険な状況であればシャーは取締りを強化するだろう」という先入観
②「体制は盤石であり、シャーは必要となれば強権を発動するだろう」という先入観
③宗教やホメイニ師に対する無理解(イスラム原理主義の勃興の見落とし)
④ナショナリズムと反米主義の見落とし・誤解

要は、的確な情報要求と収集努力、分析官のマンパワーとマインドがとても重要ということが、イラン革命の教訓からも明らかということです。また、分析官の仕事というものは、ニュース解説のようなものではなく、社会科学の方法論にそった「分析」であるべきという点は示唆に富むものです。ただ、やはりこのケースにも見られたように人手と時間が足りないにもかかわらず、次から次へと雑多な情報を評価しなければならない環境にあっては、社会科学的な方法を厳密に実践することはなかなか難しいのでしょう。この点、ホイヤーのACHなどは反証と比較を重視した簡便な方法であり、少なくともこうした手法ぐらいは実践すべきだとは思います。
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by Imperialnavy | 2014-01-29 19:44 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2014年 01月 18日

レベルによる情報源などの違い

Michael I. Handel,Intelligence and Military Operations,CASS,1990,p.27.

《主要な情報源》
◆戦術レベル 
•偵察と敵との直接接触
•捕虜の尋問
•通信傍受
•レーダー
◆作戦レベル
•偵察と敵との直接接触
•捕虜
•航空写真
•暗号解読、方位測定
•偵察衛星
•無人機、ドローン
◆戦略レベル
•高度のシギント
•ヒュミント
•偵察衛星
•同盟国との協力とオシント

《情報の信頼性の程度と消費期限》
◆戦術レベル
•非常に短い消費期限
•即時的行動に活用
•情報の信頼性は非常に低いか中程度に低い
◆作戦レベル
• 短い消費期限
•行動へのプレッシャーは強い
•行動に関する情報の信頼性は非常に低いか中程度に低い
◆戦略レベル
•中期か長期の消費期限
•即時的行動へのプレッシャーは弱い
•信頼性は中程度か高度

よくインテリジェンスの情報源のほとんどは公刊情報だ、などと言われることもありますが、ハンデルによれば、相手国軍事力の能力や意図などはシギントや偵察衛星などが主な情報源なようですね。従って、作戦・戦術レベルの分析担当者は、シギントやイミントといったテキントの分野に知悉する必要があるのでしょうね。また、上記にあるように、作戦・戦術レベルでは情報の消費期限が短く、実際の行動と密接にリンクしているので、戦略レベルのインテリジェンスとは大きく異なるインテリジェンスの体制が必要とされているということでしょう。なお、リーダーはこれらのレベルやその特徴をよく認識して、インテリジェンスの要求を出す必要があると思います。

 


 







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by Imperialnavy | 2014-01-18 13:35 | 作戦・戦術インテリジェンス | Comments(0)
2014年 01月 15日

不確実性と公式化の程度

桑田耕太郎、田尾雅夫『組織論[補訂版]』有斐閣、2011年、82、85頁。

「不確実性とは、意思決定主体が環境要因について、合理的意思決定をするのに十分な量の情報を持っていないことを意味する。」「環境の不確実性は、組織の管理システムの公式化の程度に影響を与える。「公式化」は、あらかじめ用意された規則や責任-権限関係等によって対応できる程度を意味する。」「すなわち不確実性が低ければ、公式化の程度は高くなる。(略)一方、変化が速く、不確実性の高い環境の組織では、規則や手続きはあらかじめ用意されていないか、あっても実際の仕事の場では、しばしば無視されている。」

前回、情報分析手法の定式化と教育の必要性について紹介しましたが、上記のように組織論の観点から見れば、そもそも不確実性が極めて高いインテリジェンス組織で手順を公式化することは非常に難しいのかもしれないですね。従って、その教育内容は、あくまでも基本形としての手順や分析上の心構え的な内容にとどまるのでしょう。
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by Imperialnavy | 2014-01-15 19:10 | 戦略全般 | Comments(0)
2014年 01月 07日

職人芸的な分析の危険性

Rob Johnston”Analytic Culture in the U.S.Intelligence Community”CSI,p.20.
(http://vadl.cc.gatech.edu/documents/
4_Johnson_Analytic_Culture_CIA_-_Johnston.pdf)

「情報分析がトレードクラフト(分析業務において培われた経験的スキル)であり続ける限り、それはミステリーのままである。トレードクラフトの質は、分析官個人の生来の認知能力と、良き師匠(効果的でユニークな分析手法を発見した師匠)との幸運な出会いに依存している。ただ、その分析プロセスは、一般的に科学的なプロセスに類似している。しかし、トレードクラフトで学んだ教訓は、他の学問分野における教訓と異なり、保存されたり、テストされたり、立証されることはない。また、口頭伝承において、個人のトレードクラフトの方法は徒弟制度によって伝えられる。そして口頭伝承の文化においては、実務者の喪失とともに重要な知識が失われてしまう。組織においては、知識を生かしておく何らかの正式な教育システムが存在しない限り、専門家や革新者の引退が、その専門性と革新性の喪失につながることになる。」
「大きな問題は、手法そのものを開発することにではなく、情報コミュニティ全体において、手法の検討と実証を行ってその有効性を確認するために、手法を明確に説明することである。長期的に見れば、情報分析の科学的手法の開発は容易である。だが、分析の実務者と管理者の認識を変えること、そして、それによって分析手法の文化を変えることが困難なのである。」

先日公表された「国家安全保障戦略」「新防衛大綱」のインテリジェンス関連部分において、共通していたのが、優秀な情報専門家の育成という課題でした(「高度な能力を有する情報専門家の育成を始めとする人的基盤の強化(国家安保戦略)」「能力の高い情報収集・分析要員の統合的かつ体系的な確保・育成のための体制の確立(防衛大綱)」)。では、その「育成」における中心的課題は何であろうかと考えると、その一つはやはり「情報分析能力の向上」だと思います。ただ、一口に情報分析能力といっても、その能力は経験に裏打ちされたアートと定式化された手法によるサイエンスの両面があり、その両面をどのように習得させるかが重要なのでしょう。そこで、上記のとおり、情報分析における職人芸的分析手法(トレードクラフト)に頼ることの危険性をジョンストンの論文から抜粋して紹介しました。つまり、ベテラン分析官の職人芸的な分析手法は、経験的な暗黙知にとどまっているがゆえに、その分析結果は教訓として残らず、また、形式知として組織に伝承されないということが問題なんですよね。従って、優秀な情報専門家を育成するには、ジョンストンが言うように、形式知として伝承が可能な分析手法、つまり分析手法マニュアル(職人の技を形式知化した内容も含む)のようなものを新人に対して組織的に教育することが必要だと思います。そして、当該マニュアルには、バイアスに関する知識や戦略、作戦戦術というレベルに応じた理論等(過去エントリ参照)が網羅されていることが望ましいと思います。ただ、上記の最後にあるように、職人芸の文化に染まった情報コミュニティの現場では、マニュアルのような形式ばった手順はなかなか受け入れてくれないという現実もあるようです。こうした文化的障壁に関しては、ホイヤーらによって書かれた"Structured Analytic Techniques for Intelligence Analysis"(Amazonで購入可能)などを積極的に紹介・実践していくことで、組織内の理解を広めて行くしか手はないのでしょう。

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by Imperialnavy | 2014-01-07 20:35 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)