戦略とインテリジェンス

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2013年 11月 26日

敵も決定権を持っている

コリン・グレイ『戦略の格言 戦略家のための40の議論』芙蓉書房出版、2009年、136〜142頁。

「(敵も決定権を持っているという)格言は永遠の真理だが、それでもこの真理についての理解が足りないおかげで、我々は独創性に富み、野心的で、そして単なる間違った教育を受けた人々の、無駄な努力と苦しみを防ぐことができないのだ。」「確かにほとんどの人は、本項の(敵も決定権を持っているという)格言を理屈上では分かっているかもしれないが、実践面を見てみると、歴史を動かしているのは戦うもの同士の意思のぶつかり合いではなく、まるで片一方だけの意思だけであるかのように行動していることが多いのだ。」「敵の意図と能力についての信頼に足る知識が欠如しているために、我々は自分たち自身について知っていることだけに注意を向けがちだ。」

敵の能力と意図というものを前提にする、という当たり前のようなことが案外、出来ていないのではないかということを指摘したコリン・グレイの格言です。このことは、昨日、メモした日本軍にも当てはまることですね。例えば、ミッドウェー海戦前に南雲機動部隊が、「本日(米海軍の)機動部隊出撃の算ナシ」「敵は我が企図を察知せず」と極めて主観的に見積もった事例(森史郎『ミッドウェー海戦 智略と驕慢』新潮選書、2012年、54〜56頁)はその典型ではないでしょうか。
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by Imperialnavy | 2013-11-26 20:44 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 11月 25日

日本軍における情報軽視の要因

黒野耐『参謀本部と陸軍大学校』講談社現代新書、2004年、77頁。

「(明治陸軍に戦術を教えたメッケルの)戦術教育では、想定のなかで判断するために必要な情報があらかじめ示されているため、実戦において必要な情報をみずから獲得しなければならないという感覚が希薄になる。このことが陸軍の作戦主導、情報軽視の傾向をつくったものと思われる。」

吉田俊雄『大本営海軍参謀 最後の証言 海軍の知恵と心』光人社NF文庫、2012年、66頁。

「注意深く(海軍の)図演、兵棋の経過を見ていると、そこに大きな落とし穴があったことに気づかされる。一言でいうと、「情報収集に消極的な姿勢しかとっていない」ことである。積極的に、自らの手で、努力をして、収集し判断しなくても、「情報」はいつでも、適時適切に、図演、兵棋の統監から与えられる、ということである。」

陸海軍大学校などの演習訓練において情報の収集や分析が訓練されていなかったことが情報軽視につながったというものです。まぁ、教育や訓練の欠陥だけで情報軽視という負の「組織文化」が出来上がったわけではないとは思いますが・・
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by Imperialnavy | 2013-11-25 23:01 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2013年 11月 25日

インテリジェンスの失敗とその原因

Abram N. Shulsky, Gary James Schmitt Silent Warfare: Understanding the World of Intelligence 3d Edition,Potomac Books,2002,pp.64〜69.

◆失敗の種類
1 奇襲攻撃の予測失敗
2 その他の重大事象の予測失敗

◆失敗の原因
1 政策サイドへの従属
2 必要な時・場所に情報資料が利用できないこと
3 過度の一般的意見・常識の重視
4 ミラーイメージング

既述のベイザーマンとワトキンスの予測失敗要因に似ていますが、こちらはよりインテリジェンスに特化した内容。失敗の原因を言い換えると、インテリジェンスの政治化、情報共有の欠如、認知バイアスです。従って、インテリジェンスの分析には最低限、この三点には特に留意しなければならないということでしょう。
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by Imperialnavy | 2013-11-25 00:55 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2013年 11月 22日

技術と戦争

エリオット・コーエン「第7章 技術と戦争」『戦略論 現代世界の軍事と戦争』勁草書房、2012年、212~241頁

◆軍事技術に関するいくつかの考え方
・様々な要因が軍事技術を形成(必要な機能、失敗への対応、美的配慮、慣習等)
・軍事技術における国家のスタイルは「予想される戦争(政治の想定)」を反映
・技術の発展過程は進化論的(手段と対抗手段の相互作用)
・隠れた技術が重要(重要な要素は明白なものではない。)
・全体としての性能(兵器システム)が重要
・技術的優位は「それなりに重要」
◆軍事技術の位置づけ
・軍事組織は新技術を旧い知的枠組みや運用上の枠組みに合わせようとする傾向
→新技術がどのような変化を広汎にもたらすかを知るのは困難
・技術変化は「質的変化」/「量的変化」なのかという問題
・「変化する側面」と「変化しない側面」
◆新時代における軍事技術の3つの特色
・量より質の向上(大規模軍隊は必要ない)
・兵器の多種化
・商用技術の興隆
◆軍事技術の将来
・戦争が宇宙にまで拡大
・サイバースペースにおける戦争
・ナノテクノロジー、ロボット工学、人工知能の進歩(自動システムの発展) 
・生物科学による人間本性の改造(死を恐れない兵士の誕生?)

新聞報道などを通じ、しきりと中国の軍備増強が伝えられているなか、インテリジェンスにおいて大事なことは、そうした「量」としての増強を把握しつつ、「質」としての変化を見極めることだと思います。また、上記にあるように装備状況から、どのような戦争を想定しているのか、軍事技術が将来の戦争にどのような影響をもたらすのかといったことも重要な分析事項だと思います。ただ、そもそも複雑化した軍事技術に通暁することは並大抵のことではないので、相手の「量」を把握することはできても「質」の変化や将来戦の様相を把握することは言うは易く行うは難しというものです。
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by Imperialnavy | 2013-11-22 09:36 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 11月 20日

作戦・戦術インテリジェンスの定義

JP 2-0, Joint Intelligence, 22 June 2007,I‐23,I‐24.
(http://www.dtic.mil/doctrine/new_pubs/
jointpub_intelligence.htm)

◆作戦インテリジェンス
 任務部隊指揮官や部隊の司令クラスが必要とする、彼の能力と意図に焦点を当てたインテリジェンス。関心のあるエリアにおける事象の監視を行うとともに、彼の重心を特定し、作戦計画の立案と作戦の実施を支援する。

◆戦術インテリジェンス
 現場部隊指揮官が必要とする、戦闘の計画実施を支援するためのインテリジェンス。切迫した脅威に関する情報や脅威目標の状態に関する性格な情報を提供する。

昔の軍隊における作戦インテリジェンスについては、米軍や日本軍が情況判断(The Estimate of the Situation)において行っていた敵情判断(Enemy:Strength,Disposition,Probable intentions)がまさしくこれに当たるものだったと思います。
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by Imperialnavy | 2013-11-20 13:37 | 作戦・戦術インテリジェンス | Comments(0)
2013年 11月 19日

戦略インテリジェンスの定義

JP 2-0, Joint Intelligence, 22 June 2007
(http://www.dtic.mil/doctrine/new_pubs/
jointpub_intelligence.htm)

◆国家戦略インテリジェンス
大統領、議会、国防総省、上級軍事指揮官等に対して作成されるインテリジェンスのこと。国家戦略や政策の立案、国際情勢のモニター、軍事計画、装備体系や軍事組織の構造の決定、戦略的オペレーションの実施に利用される。

◆地域戦略インテリジェンス
統合作戦を支援し、国家安全保障と同盟国の国益に影響する現在と将来における彼の能力を把握するためのインテリジェンス。いつ、どこで、どの程度の強さの敵が現れ、地域レベルの会戦が生起するのかといったことを明らかにするために利用される。

国家戦略インテリジェンスを生産するには、少なくとも国際政治の理論を把握しておく必要がありそうです。また、地域戦略インテリジェンスを生産するには、それなりの地域研究が必要なのだと思います。ということで、引き続き国際政治の理論と地域研究的な内容をメモしていこうかと思います。
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by Imperialnavy | 2013-11-19 23:22 | 戦略インテリジェンス | Comments(0)
2013年 11月 19日

危機の予防を妨げる要因

マックス・H・ベイザーマン、マイケル・D・ワトキンス『予測できた危機をなぜ防げなかったのか?』東洋経済新報社、2011年、73~124頁。

◆認知要因(人間のバイアスの作用)
 ・楽観幻想(コントロール出来ない事象をコントロールできると思い込む)
 ・自己中心性(自分の都合のいいように情報を解釈する。情報の政治化)
 ・将来の軽視(危機が起きるのははるか先だと思い込む)
 ・現状維持(嫌な選択と向き合わない)
 ・鮮明さの問題(鮮明なデータを目のあたりにするまで人は行動しない)

◆組織要因(構造的欠陥)
 ・環境スキャンの失敗(不注意や資源不足等により外部環境・内部環境に対するスキャンを怠る。シグナルとノイズの問題や情報過多による過剰負担)
 ・統合の失敗(様々な部署に散在している情報を集約して分析しない。点と点をつなぐことをしない。秘密性に伴う情報共有の失敗)
 ・インセンティブの失敗(洞察はあっても、行動に移すインセンティブが無い。縦割りや分権化による組織利益との衝突。)
 ・学習の失敗(教訓の形式知化の欠如。記憶の風化。知識管理の失敗)

これまでの記事で述べた「摩擦」や「不確実性」の要因であるとも言えそうです。
認知要因は教育や他人との相互チェックで是正していくしかないのでしょう。また、情報技術によってある程度の補正は可能なのかもしれません。
一方、組織要因を排除するには、当たり前ですが、環境スキャンと学習で得た情報を統合して、インセンティブが機能しやすい組織に改革していく必要があるということです。
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by Imperialnavy | 2013-11-19 09:24 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 11月 18日

国家間関係の三つのレベル

高坂正堯『国際政治 恐怖と希望』中公新書、1966年、19頁

「各国家は力の体系であり、利益の体系であり、そして価値の体系である。したがって、国家間の関係はこの三つのレベルの関係がからみあった複雑な関係である。国家間の平和の問題を困難なものとしているのは、それがこの三つのレベルの複合物だということなのである。」

ジョセフ・S・ナイ、デイヴィッド・A・ウェルチ『国際紛争 理論と歴史 原書第9版』有斐閣、2013年、406~407頁。

「グローバルな情報化時代にあっては、パワーは、垂直のみならず水平にも展開される複雑な3層のチェス・ゲームに似たパターンで、諸国家間に分布している。政治・軍事問題をめぐる最上層のチェス・ゲームでは、軍事力は唯一の超大国たるアメリカを中心にもっぱら単極であるが、経済問題をめぐる2層目では、アメリカは覇権国や帝国ではなく、ヨーロッパが足並みを揃えて行動する時には、対等の立場で交渉しなければならない。(中略) 政府の統制の届かない国境を越えた脱国家的関係という最下層のチェス盤では、銀行家からテロリストにいたるさまざまな主体が活動していて、パワーは広く分散している。」

似たような内容だったので並べてみました。

・力の体系―政治・軍事に関する最上層のチェス盤
・利益の体系―経済に関する2層目のチェス盤
・価値の体系―脱国家的関係に関する最下層のチェス盤

こうした見方でもって国際情勢を見る必要があるということです。
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by Imperialnavy | 2013-11-18 22:05 | 戦略インテリジェンス | Comments(0)
2013年 11月 18日

韓国情報委員会の概要

◆93年2月9日に構成された「国会運用及び制度改善小委員会」で「国家情報業務に対する国会の効率的な統制と国家機密保護の相互調和の必要性」から「情報委員会」新設等を内容とする国会法の改善法律案を立案。同法律案が国会運用委員会を通過し、94年6月25日、第169回国会第1次本会議で議決され、同年6月28日に新設( 設置以前は、国防委員会で国家安全企画部所管事項を扱っていた。)

◆国会法第36条の規定により、情報委員会所管の議案と証言等の審査等を職務とし、情報及び保安業務の企画・調整対象部署の情報予算案と決算審査に関する事項を所管

◆情報委員会の細部
・国会議員数 12名(現在、与党6名、野党6名)
・任期 2年
・予算案と決算の審査事項は、所管部署別の予算案と決算審査結果の総額を報告。
・委員会会議は非公開
・議員及び所属公務員が職務上知り得た国家機密を公開したり他人へ流出することは禁止されている。
・委員会所属職員に対しては国家情報院長に身辺調査を依頼する。
・国家情報院の予算審議は非公開であり、議員が国家情報院の予算内容を公開することは禁止されている。


ソース:韓国情報委員会ホームページ(http://intelligence.na.go.kr/site)
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by Imperialnavy | 2013-11-18 10:58 | その他 | Comments(0)
2013年 11月 16日

作戦・戦術インテリジェンスの特質

Michael I. Handel “Leaders and intelligence”(Intelligence and National Security Volume 3, Issue 3, 1988, pp.17-19).

・高い政治や戦略レベルの意思決定とインテリジェンス見積りは、それらが主に長い期間の傾向を扱うものであるがゆえに時間のプレッシャーを受けることは滅多に無い。
・他方、作戦と戦術のレベルでは、ほとんどの場合、短い期間の見積りであり、行動のための切迫したプレッシャーがある。
・作戦と戦術レベルでの決定は、月、週もしくは日単位で明らかとなる。
・作戦と戦術レベルのインテリジェンスでは、通常、定量化されたインフォメーションを扱う。指揮官は敵の戦力組成などに関する具体的なインテリジェンスを求める。

作戦・戦術インテリジェンスにおいては、時間のプレッシャーにかかわる特質を理解することが大事だということです。もし作戦レベルのインテリジェンスを求められているにもかかわらず、戦略インテリジェンスのような悠長な分析作業をしていると、いくら情報技術が優れていたとしても、これまでの記事で述べた「不確実性」「摩擦」といったものによって「腐り易い」作戦インテリジェンスの正確性は大幅に失われます。
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by Imperialnavy | 2013-11-16 23:32 | 作戦・戦術インテリジェンス | Comments(0)