戦略とインテリジェンス

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カテゴリ:インテリジェンスの失敗( 8 )


2014年 07月 03日

フォークランド紛争時のイギリスの失敗

「第3章 サッチャー政権以降のイギリス・アルゼンチン関係」『フォークランド戦争史』防衛研究所 http://www.nids.go.jp/publication/index.html 39〜40頁の要約

◆アルゼンチン外務省は「イギリス側に解決の意思がない場合、交渉を諦め自国の利 益のため今後あらゆる手段を取る」と警告を行った。しかしイギリスの合同情報会議での結論は、外交交渉が続いている限りアルゼンチンが極端な行動には出ることはない、というものだった。
◆イギリス国防情報本部もアルゼンチン海軍の強硬的な姿勢はいつものこと、という判断であった。このようにイギリスの情勢判断はかなり楽観的なものとなっていた。
◆ブエノスアイレスのウィリアムス大使は、イギリスがアルゼンチン側の要求を受け入れなければ、3 月中の武力行使もありうると警告していた。しかし大使館からの警告は度々のことであり、同大使館はオオカミ少年と見なされていた。そのためロンドンは本腰を入れた対応を怠たってしまった。

結局のところ過去の事例をもとに楽観的な分析をすることは危険だ、というありきたりの教訓ですが、島嶼防衛が問題となっている我が国にとってはとても参考になる事例ですね。我が国のインテリジェンスにもオオカミ少年のように警告する組織があるのかどうかは分かりませんが、カスタマーはそうした警告を馬鹿にせず、警告に基づくあらゆるシナリオを想定して対応を考える必要があるのだと思います。他方、警告する側においては、オオカミ少年とみなされないように、極力、タイミングと情報の精度を見極める努力を怠らないことが肝心なのでしょう。

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by Imperialnavy | 2014-07-03 18:04 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2014年 01月 29日

イラン革命の予測になぜ失敗したのか

Robert Jervis,Why Intelligence Fails Lessons from the Iranian Revolution and the Iraq War, Cornell University Press, 2010,pp.15~32,108.

◆要求・収集関連
・SAVAKからイラン国内の政治や反政府勢力の情報は提供されていなかった。
・イランの国内政治はCIA作戦部の優先順位のリストには無かった。
・出回っていたホメイニ師の発言を収めたカセットテープすら収集しなかった。

◆分析関連
・CIAにイランの政治と経済の分析官はそれぞれ2名ずつしかいなかった。
・外部の学者や専門家との意見交換もほとんどなかった。
・報告文書の内容は記述的で、多くの事実が述べられていたにすぎなかった。
・CIAの分析は社会科学というよりも、ジャーナリスティックな内容であった。

◆四つの主要なエラー(マインドセット)
①「危険な状況であればシャーは取締りを強化するだろう」という先入観
②「体制は盤石であり、シャーは必要となれば強権を発動するだろう」という先入観
③宗教やホメイニ師に対する無理解(イスラム原理主義の勃興の見落とし)
④ナショナリズムと反米主義の見落とし・誤解

要は、的確な情報要求と収集努力、分析官のマンパワーとマインドがとても重要ということが、イラン革命の教訓からも明らかということです。また、分析官の仕事というものは、ニュース解説のようなものではなく、社会科学の方法論にそった「分析」であるべきという点は示唆に富むものです。ただ、やはりこのケースにも見られたように人手と時間が足りないにもかかわらず、次から次へと雑多な情報を評価しなければならない環境にあっては、社会科学的な方法を厳密に実践することはなかなか難しいのでしょう。この点、ホイヤーのACHなどは反証と比較を重視した簡便な方法であり、少なくともこうした手法ぐらいは実践すべきだとは思います。
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by Imperialnavy | 2014-01-29 19:44 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2014年 01月 07日

職人芸的な分析の危険性

Rob Johnston”Analytic Culture in the U.S.Intelligence Community”CSI,p.20.
(http://vadl.cc.gatech.edu/documents/
4_Johnson_Analytic_Culture_CIA_-_Johnston.pdf)

「情報分析がトレードクラフト(分析業務において培われた経験的スキル)であり続ける限り、それはミステリーのままである。トレードクラフトの質は、分析官個人の生来の認知能力と、良き師匠(効果的でユニークな分析手法を発見した師匠)との幸運な出会いに依存している。ただ、その分析プロセスは、一般的に科学的なプロセスに類似している。しかし、トレードクラフトで学んだ教訓は、他の学問分野における教訓と異なり、保存されたり、テストされたり、立証されることはない。また、口頭伝承において、個人のトレードクラフトの方法は徒弟制度によって伝えられる。そして口頭伝承の文化においては、実務者の喪失とともに重要な知識が失われてしまう。組織においては、知識を生かしておく何らかの正式な教育システムが存在しない限り、専門家や革新者の引退が、その専門性と革新性の喪失につながることになる。」
「大きな問題は、手法そのものを開発することにではなく、情報コミュニティ全体において、手法の検討と実証を行ってその有効性を確認するために、手法を明確に説明することである。長期的に見れば、情報分析の科学的手法の開発は容易である。だが、分析の実務者と管理者の認識を変えること、そして、それによって分析手法の文化を変えることが困難なのである。」

先日公表された「国家安全保障戦略」「新防衛大綱」のインテリジェンス関連部分において、共通していたのが、優秀な情報専門家の育成という課題でした(「高度な能力を有する情報専門家の育成を始めとする人的基盤の強化(国家安保戦略)」「能力の高い情報収集・分析要員の統合的かつ体系的な確保・育成のための体制の確立(防衛大綱)」)。では、その「育成」における中心的課題は何であろうかと考えると、その一つはやはり「情報分析能力の向上」だと思います。ただ、一口に情報分析能力といっても、その能力は経験に裏打ちされたアートと定式化された手法によるサイエンスの両面があり、その両面をどのように習得させるかが重要なのでしょう。そこで、上記のとおり、情報分析における職人芸的分析手法(トレードクラフト)に頼ることの危険性をジョンストンの論文から抜粋して紹介しました。つまり、ベテラン分析官の職人芸的な分析手法は、経験的な暗黙知にとどまっているがゆえに、その分析結果は教訓として残らず、また、形式知として組織に伝承されないということが問題なんですよね。従って、優秀な情報専門家を育成するには、ジョンストンが言うように、形式知として伝承が可能な分析手法、つまり分析手法マニュアル(職人の技を形式知化した内容も含む)のようなものを新人に対して組織的に教育することが必要だと思います。そして、当該マニュアルには、バイアスに関する知識や戦略、作戦戦術というレベルに応じた理論等(過去エントリ参照)が網羅されていることが望ましいと思います。ただ、上記の最後にあるように、職人芸の文化に染まった情報コミュニティの現場では、マニュアルのような形式ばった手順はなかなか受け入れてくれないという現実もあるようです。こうした文化的障壁に関しては、ホイヤーらによって書かれた"Structured Analytic Techniques for Intelligence Analysis"(Amazonで購入可能)などを積極的に紹介・実践していくことで、組織内の理解を広めて行くしか手はないのでしょう。

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by Imperialnavy | 2014-01-07 20:35 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2013年 12月 06日

失敗の7要素と対処法

ロジャー・ジョージ「第8章 インテリジェンスと戦略」『戦略論 現代世界の軍事と戦争』勁草書房、2012年、262~264頁。

◆インテリジェンスの失敗の7要素
①情報収集における失敗
②分析における誤った解釈
③敵の欺瞞
④敵の情報保全
⑤情報共有の欠如
⑥政策決定者への伝達の失敗
⑦政策決定者の情報無視や怠慢

◆対処法
①情報収集の改善
②敵の欺瞞能力や欺瞞を行う動機の評価
③バイアスの自覚と分析手法の活用

いずれも過去のエントリの内容とほぼ同じです。ただ、欺瞞の問題については具体的な方法論があまりない(気休め程度ならありますが・・)ので非常に難しいと思います。ちなみにジャービスは欺瞞について「多くの場合、国家は欺まんを行う機会を差し控える。なぜなら、それらは非常に複雑であるし、あまりに多くの有効な情報を明らかにすることになりかねないからである。」(Why Intelligence Fails,2010)と述べており、そう頻繁に行われるものでもないことを示唆しています。

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by Imperialnavy | 2013-12-06 14:24 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2013年 12月 03日

なぜインテリジェンスは失敗するのか

Robert Jervis,Why Intelligence Fails Lessons from the Iranian Revolution and the Iraq War, (Cornell University Press, 2010).pp.2-3.

◆インテリジェンスの失敗についての最も明白な意味は、見積り(Estimate)とその後に明らかになった情報(Information)とのミスマッチである。
◆インテリジェンスの失敗を判断する点は分析官が手元の情報を上手く活用したかどうかである。
◆悪い結果は悪いプロセスによって説明される。答えが間違っていたという事実は思考の手順や方法に欠陥があったということである。
◆多くのケースでは、証拠と推論の間の薄弱な理解と安全な結論の叙述がみられる。
◆より注意を払い、訓練し、明確な推論を行えば、自動的に正解に達するというわけではないが、そうすることで、より良い分析を生み、争点のカギを明らかにする仕事の質を高め、正解につながるチャンスを増やす。

結局のところ、失敗を防ぐ万能薬は無いということであり、きちんと方法論に従って客観的に分析を行っていくしか解決策はないということです。従って、やはり大事なことはオーソライズされた分析手法による訓練ということになるのでしょう。
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by Imperialnavy | 2013-12-03 19:09 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2013年 12月 01日

東日本大震災

木村英昭『官邸の100時間 検証 福島原発事故』岩波書店、2012年。
38ー42頁
「危機管理センターの中二階が原発事故の情報収集と判断をする拠点となった。しかし電話が2本しかなく、ファックスもなく、携帯も圏外だった。東電本店から情報が即座に入らず、テレビから原発事故の情報を得るしかなかった。」「午後9時、班目委員長が官邸に来たが、肝心の原発の図面が無く、情報は何も入ってこなかった。」「班目委員長にとって情報はテレビと記憶だけだった。班目「保安院の事務局はどんどん情報の伝令をとばすべきだったがまったくこなかった。あの時保安院は消えてた。」」
130頁
「12日午後に1号機で起きた水素爆発について、菅が手に入れることができた確実な情報は日本テレビで午後4時49分から放送された福島中央テレビの撮影映像だけだった。」

当時の意思決定に情報という要素が決定的に欠けていたことが窺える内容です。
そもそもインフォメーションが無ければインテリジェンスどころか状況把握すら出来ないので、いざという時に備え、無駄とも言えるぐらいのインフォメーション収集の態勢を整えることが必要ということなんでしょうね。
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by Imperialnavy | 2013-12-01 00:35 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2013年 11月 25日

日本軍における情報軽視の要因

黒野耐『参謀本部と陸軍大学校』講談社現代新書、2004年、77頁。

「(明治陸軍に戦術を教えたメッケルの)戦術教育では、想定のなかで判断するために必要な情報があらかじめ示されているため、実戦において必要な情報をみずから獲得しなければならないという感覚が希薄になる。このことが陸軍の作戦主導、情報軽視の傾向をつくったものと思われる。」

吉田俊雄『大本営海軍参謀 最後の証言 海軍の知恵と心』光人社NF文庫、2012年、66頁。

「注意深く(海軍の)図演、兵棋の経過を見ていると、そこに大きな落とし穴があったことに気づかされる。一言でいうと、「情報収集に消極的な姿勢しかとっていない」ことである。積極的に、自らの手で、努力をして、収集し判断しなくても、「情報」はいつでも、適時適切に、図演、兵棋の統監から与えられる、ということである。」

陸海軍大学校などの演習訓練において情報の収集や分析が訓練されていなかったことが情報軽視につながったというものです。まぁ、教育や訓練の欠陥だけで情報軽視という負の「組織文化」が出来上がったわけではないとは思いますが・・
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by Imperialnavy | 2013-11-25 23:01 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2013年 11月 25日

インテリジェンスの失敗とその原因

Abram N. Shulsky, Gary James Schmitt Silent Warfare: Understanding the World of Intelligence 3d Edition,Potomac Books,2002,pp.64〜69.

◆失敗の種類
1 奇襲攻撃の予測失敗
2 その他の重大事象の予測失敗

◆失敗の原因
1 政策サイドへの従属
2 必要な時・場所に情報資料が利用できないこと
3 過度の一般的意見・常識の重視
4 ミラーイメージング

既述のベイザーマンとワトキンスの予測失敗要因に似ていますが、こちらはよりインテリジェンスに特化した内容。失敗の原因を言い換えると、インテリジェンスの政治化、情報共有の欠如、認知バイアスです。従って、インテリジェンスの分析には最低限、この三点には特に留意しなければならないということでしょう。
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by Imperialnavy | 2013-11-25 00:55 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)