戦略とインテリジェンス

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カテゴリ:戦略全般( 8 )


2014年 02月 18日

戦争の理論

吉田和男、藤本茂編著『グローバルな危機の構造と日本の戦略』晃洋書房、2013年、214〜217、222頁。

◆戦争は社会的結合を増大させ、様々な国内的欲求を解消する魅力を持つ。
◆戦争は対立している勢力の力が接近しているときに勃発の可能性が高まる。
◆現状変更国家の軍事力が現状維持国家の軍事力を追い抜いた時に現状変更国家が現状維持国家に対して戦争をしかける可能性が高くなる。
◆戦争を起こすメリットは経済的利益と政治的利益の両側面から計算される。ただし、政治的利益は経済的利益と異なり数字では表せない。
◆小規模な戦争はコストが小さいため大規模な戦争を躊躇する国も戦争の規模が小さければ戦争を躊躇しない場合がある。
◆敗戦のコストと不戦のコストに差が無くなり、かつ勝つチャンスがある場合、座して死を待つよりも一か八かで戦争に掛けてしまうことがある。

戦争がどのような時に起こるのかといった本質的な問題に対して、極めて単純明快な前提を提示しており、分析を行う上で参考になります。当然、実際に分析を行う際は、このような前提を参考にしつつ、当該国の戦略文化や国内政治、経済的な依存関係などの様々な要素の分析も必要です。ただ、こうした基本的な視座は分析の基礎的素養として必要だと思います。特に、時間が切迫している場合、悠長に分析している暇は無いので、こうした前提に立って迅速に最悪の戦争勃発シナリオを検討することが必要なのかもしれません。

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by Imperialnavy | 2014-02-18 00:05 | 戦略全般 | Comments(0)
2014年 01月 15日

不確実性と公式化の程度

桑田耕太郎、田尾雅夫『組織論[補訂版]』有斐閣、2011年、82、85頁。

「不確実性とは、意思決定主体が環境要因について、合理的意思決定をするのに十分な量の情報を持っていないことを意味する。」「環境の不確実性は、組織の管理システムの公式化の程度に影響を与える。「公式化」は、あらかじめ用意された規則や責任-権限関係等によって対応できる程度を意味する。」「すなわち不確実性が低ければ、公式化の程度は高くなる。(略)一方、変化が速く、不確実性の高い環境の組織では、規則や手続きはあらかじめ用意されていないか、あっても実際の仕事の場では、しばしば無視されている。」

前回、情報分析手法の定式化と教育の必要性について紹介しましたが、上記のように組織論の観点から見れば、そもそも不確実性が極めて高いインテリジェンス組織で手順を公式化することは非常に難しいのかもしれないですね。従って、その教育内容は、あくまでも基本形としての手順や分析上の心構え的な内容にとどまるのでしょう。
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by Imperialnavy | 2014-01-15 19:10 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 11月 26日

敵も決定権を持っている

コリン・グレイ『戦略の格言 戦略家のための40の議論』芙蓉書房出版、2009年、136〜142頁。

「(敵も決定権を持っているという)格言は永遠の真理だが、それでもこの真理についての理解が足りないおかげで、我々は独創性に富み、野心的で、そして単なる間違った教育を受けた人々の、無駄な努力と苦しみを防ぐことができないのだ。」「確かにほとんどの人は、本項の(敵も決定権を持っているという)格言を理屈上では分かっているかもしれないが、実践面を見てみると、歴史を動かしているのは戦うもの同士の意思のぶつかり合いではなく、まるで片一方だけの意思だけであるかのように行動していることが多いのだ。」「敵の意図と能力についての信頼に足る知識が欠如しているために、我々は自分たち自身について知っていることだけに注意を向けがちだ。」

敵の能力と意図というものを前提にする、という当たり前のようなことが案外、出来ていないのではないかということを指摘したコリン・グレイの格言です。このことは、昨日、メモした日本軍にも当てはまることですね。例えば、ミッドウェー海戦前に南雲機動部隊が、「本日(米海軍の)機動部隊出撃の算ナシ」「敵は我が企図を察知せず」と極めて主観的に見積もった事例(森史郎『ミッドウェー海戦 智略と驕慢』新潮選書、2012年、54〜56頁)はその典型ではないでしょうか。
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by Imperialnavy | 2013-11-26 20:44 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 11月 22日

技術と戦争

エリオット・コーエン「第7章 技術と戦争」『戦略論 現代世界の軍事と戦争』勁草書房、2012年、212~241頁

◆軍事技術に関するいくつかの考え方
・様々な要因が軍事技術を形成(必要な機能、失敗への対応、美的配慮、慣習等)
・軍事技術における国家のスタイルは「予想される戦争(政治の想定)」を反映
・技術の発展過程は進化論的(手段と対抗手段の相互作用)
・隠れた技術が重要(重要な要素は明白なものではない。)
・全体としての性能(兵器システム)が重要
・技術的優位は「それなりに重要」
◆軍事技術の位置づけ
・軍事組織は新技術を旧い知的枠組みや運用上の枠組みに合わせようとする傾向
→新技術がどのような変化を広汎にもたらすかを知るのは困難
・技術変化は「質的変化」/「量的変化」なのかという問題
・「変化する側面」と「変化しない側面」
◆新時代における軍事技術の3つの特色
・量より質の向上(大規模軍隊は必要ない)
・兵器の多種化
・商用技術の興隆
◆軍事技術の将来
・戦争が宇宙にまで拡大
・サイバースペースにおける戦争
・ナノテクノロジー、ロボット工学、人工知能の進歩(自動システムの発展) 
・生物科学による人間本性の改造(死を恐れない兵士の誕生?)

新聞報道などを通じ、しきりと中国の軍備増強が伝えられているなか、インテリジェンスにおいて大事なことは、そうした「量」としての増強を把握しつつ、「質」としての変化を見極めることだと思います。また、上記にあるように装備状況から、どのような戦争を想定しているのか、軍事技術が将来の戦争にどのような影響をもたらすのかといったことも重要な分析事項だと思います。ただ、そもそも複雑化した軍事技術に通暁することは並大抵のことではないので、相手の「量」を把握することはできても「質」の変化や将来戦の様相を把握することは言うは易く行うは難しというものです。
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by Imperialnavy | 2013-11-22 09:36 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 11月 19日

危機の予防を妨げる要因

マックス・H・ベイザーマン、マイケル・D・ワトキンス『予測できた危機をなぜ防げなかったのか?』東洋経済新報社、2011年、73~124頁。

◆認知要因(人間のバイアスの作用)
 ・楽観幻想(コントロール出来ない事象をコントロールできると思い込む)
 ・自己中心性(自分の都合のいいように情報を解釈する。情報の政治化)
 ・将来の軽視(危機が起きるのははるか先だと思い込む)
 ・現状維持(嫌な選択と向き合わない)
 ・鮮明さの問題(鮮明なデータを目のあたりにするまで人は行動しない)

◆組織要因(構造的欠陥)
 ・環境スキャンの失敗(不注意や資源不足等により外部環境・内部環境に対するスキャンを怠る。シグナルとノイズの問題や情報過多による過剰負担)
 ・統合の失敗(様々な部署に散在している情報を集約して分析しない。点と点をつなぐことをしない。秘密性に伴う情報共有の失敗)
 ・インセンティブの失敗(洞察はあっても、行動に移すインセンティブが無い。縦割りや分権化による組織利益との衝突。)
 ・学習の失敗(教訓の形式知化の欠如。記憶の風化。知識管理の失敗)

これまでの記事で述べた「摩擦」や「不確実性」の要因であるとも言えそうです。
認知要因は教育や他人との相互チェックで是正していくしかないのでしょう。また、情報技術によってある程度の補正は可能なのかもしれません。
一方、組織要因を排除するには、当たり前ですが、環境スキャンと学習で得た情報を統合して、インセンティブが機能しやすい組織に改革していく必要があるということです。
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by Imperialnavy | 2013-11-19 09:24 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 11月 15日

不確実性の深刻化と戦略家の使命

マクレガー・ノックス「第十九章 おわりに 戦略形成における連続性と革命」『戦略の形成(下)支配者、国家、戦争』中央公論新社、2009年、510、517頁。

「画像撮影、監視、暗号解読のためのシステムの能力や範囲が飛躍的に拡大するのに従い、クラウゼヴィッツが軽視したインテリジェンスは、現代の戦略家にとって高い重要性を持つようになった。しかしなから、「信号」と見られるものを「ノイズ」や欺瞞情報と区別するだけでなく、収集された膨大なデータを迅速に処理し、敵の能力や意図を判断し、そのドクトリンやイデオロギー上の盲点を見抜く一方で、自国の分析担当者の盲点を解消するというシステムは欠落していた。その結果、不確実性は残存しただけでなく、より深刻化した。」「少なくとも、戦略家は謙遜や、冷徹かつ歴史を踏まえた批判的な分析、そして勝利にあっても自己満足しない態度をもって、自分自身と潜在的な敵対者、その強さと弱さ、そして先入観や限界を明確に理解しなければならない。(略)戦略家は敵の弱点を正確に見抜き、奇襲攻撃によってであれ、消耗戦によってであれ、あるいは戦争によってであれ政治・経済上の闘争によってであれ、その弱点を攻撃できるように準備しなければならない。」

要約すると、情報技術の発達でインテリジェンスの価値が高まったものの、分析担当者自身の認知能力自体は改善しなかったため、結局のところ不確実性はノイズ情報の増大によってむしろ増加したということでしょう。そのため、少なくとも先入観を排して敵の弱点をしなければならないことが説かれています。ただ、敵の弱点を把握するといっても一体どうすれば把握できるの?という疑問もあります。これについては例えば米軍の重心理論などがありますが、これについてはまた後日。
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by Imperialnavy | 2013-11-15 23:48 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 11月 02日

情報技術は摩擦を消滅させるか

片岡徹也編『軍事の辞典』東京堂出版、2009年、72〜74頁より
「テクノロジー、とりわけ偵察衛星やIT技術、精密誘導兵器システムの発達によって、これからの情報化時代の戦争の姿は一変し、戦争における「摩擦」は消滅するのではないかという議論が、湾岸戦争の米軍の勝利を根拠に浮上してきた。だが湾岸戦争を仔細に点検すると「摩擦」はあらゆる次元に存在していた。(略)「摩擦」は戦争の構造的要因である。行使される兵器装備の側にではなく、行使する人間の側に、より根源的な「摩擦」が発生する要因が存在する。(略)情報技術の発達によって必要な情報のすべてを入手し、「戦場の霧」を晴らせ、戦争から一切の「摩擦」を排除することは不可能だという結論になる。「摩擦」が生ずるのは技術の問題というよりも、人間の問題なのである。」

人間の認知能力を改善することが、摩擦を減らすことにつながるということですね。従って認知的側面を考慮した情報分析の手法が、摩擦という概念を通してみても重要であることがわかります。
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by Imperialnavy | 2013-11-02 14:46 | 戦略全般 | Comments(0)
2013年 10月 12日

不確実性の問題

マーチン・ファン・クレフェルト『戦争の変遷』原書房 188頁より
「戦争における不確実性を生み出すもう一つの重要な原因は、軍隊の規模ではなく軍隊を構成しているのが人間だという事実によるものである。戦争ほど怒りや恐怖、痛み、死が関わってくる活動はない。(略)そのような状況下においては、情報が伝えられる速度、情報の首尾一貫性、情報の信頼性などすべてが悪影響を受ける。これは賢明な司令官ならば考慮に入れる要素である。厳格な手順、チェックリスト、書式、コールサイン、決まった時刻に情報を伝達する、などを確立し、それを実施していけばこの場合も問題を緩和できる。だが、さまざまな情報経絡の質は、最終的に人間的な要素によって決まる。どんな最先端の情報伝達および処理システムを使おうと、情報の質は、システムにデータを入力し、データを伝え、それをふるいにかけ、最後にそれを利用する、各段階にいる人たちに依存するのである。このことはどんなにたくさんのコンピュータを使っても解決できない問題である。」

情報の失敗を防ぐため、近年の米国情報機関は情報分析の手法を活用し、クレフェルトが言うところの「厳格な手順やチェックリスト」などを確立しているようです。
また、日本では今、ビジネスにおける不確実性の低減のため、ビッグデータを活用したデータマイニングが流行っています。
ただ、やはりクレフェルトが言うように、結局は人にしか最終的な評価や決断はできません。ゆえに、人の脳と全く同じ人工知能ができない限り、人の知恵が最も大事であることは、これからも変わらないと思います。
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by Imperialnavy | 2013-10-12 22:04 | 戦略全般 | Comments(0)