2016年 08月 17日

レッドセルとレッドチーム

米軍やイギリス軍で設けられている「レッドセル」と「レッドチーム」の違いについては下記の文献に書かれている内容が参考になる。端的に言えば「レッドセル」とは計画策定チームの一員であり、同チームの外部に設けられた「レッドチーム」が詳細に分析した結果を基に「レッドセル」が相手のとりうる行動等を予測するという仕組みのようだ。留意事項としては、レッドセルには情報部の者だけでなく作戦部の者も置くといったことや、レッドチームにも計画チームの情報にアクセスできるようにするといった点が挙げられる。

NAVY PLANNING NWP 5-01 ,DECEMBER 2013 (抜粋)pp.Q‐5‐5~Q‐5‐6
➣レッドセルのメンバーは情報部の計画チームとの区切りを設けながら、ウォーゲームに参加しなければならない。レッドセルは我の各行動に対する敵の能力や行動についての洞察を提供し、情報部の計画チームはインテリジェンスのリソースとしてプロダクト作成や評価の検証を行う。
➣レッドセルの機能とは情報部を拡大させたようなものである。レッドセルのメンバーにはオペレーターとインテリジェンスの代表スタッフが含まれなければならない。
➣計画チームとレッドセルは敵対的関係ではなく、補完的な関係にある。
➣レッドセルはMDCOAとMLCOAを描き出さなければならない。

U.K. MOD, Red Teaming Guide, Second Edition, January 2013.pp.4-2~4-3
➣統合部隊の司令官はレッドチームのリーダーを指名し、参謀長はレッドチームにリソースを使えるようにしなければならない。レッドチームリーダーは(分析結果を)司令官に直接報告するか、もしくは、計画チームに提供する。また、レッドチームには計画チームの持つ情報にアクセスさせる必要がある。
➣レッドチームの目的は敵に関する理解を向上させること。レッドセルは計画チームの一員として敵のドクトリンや文化的背景を考慮したうえで見積られる敵の計画を作成する。
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# by Imperialnavy | 2016-08-17 21:41 | 作戦・戦術インテリジェンス | Comments(0)
2016年 08月 16日

レッドチーム分析

ミカ・ゼンコ『レッドチーム思考 組織の中に「最後の反対者」を飼う』(文藝春秋、2016年)は、米軍におけるインテリジェンス手法が実際の事例とあわせて紹介されていて面白い。情報組織では分析担当の評価の妥当性をバイアスや組織のしがらみで客観的に検証できない。このため、意思決定に関与できる外部的な分析チームで別の可能性を指摘できる仕組みを作るべしということである。
ちなみに、このサイトには各種の関連文献が掲載されており、また、下記のように、インターネットで見ることのできる米軍の教範にもレッドチーム(またはレッドセル)の手法などが記載されているので、実務者はこれらを確認したうえで、実践した方がよいだろう。

The applied critical thinking handbook(Formaly the RED Team Handbook,UFMCS,JAN 2015.(抜粋)
➣三つの役割
 ・作戦の計画実施、意思決定の支援
 ・既存の計画における分析の批判的検証
 ・インテリジェンス支援(脅威評価)
➣プランニングにおけるレッドチーム
 ・プランニングの各フェーズに参加
 ・レッドチームはスタッフミーティングや全体会議ではブリーフィングを避ける。
 ・レッドチームは別の仮説、ギャップと弱点、我の行動方針への脅威を特定する。
➣計画・実施段階における継続的な確認事項(キークエスチョン)
 ・~したらどうなるだろうか
※What if?Analysis参照
 ・~の目的は何だろうか
 ・次に何が起こるのだろうか
 ・我々は何を評価すべきなのか

NAVY PLANNING NWP 5-01 ,DECEMBER 2013 (抜粋)
➣レッドセルと情報部の間の分析の違いは、認識され、解決されなければならない。効果的に行うには、プランニングの過程を通じてレッドセルと計画チームはインフォメーションと分析結果を継続的に交換する必要がある。レッドセルは独自の分析を実施したならば、情報部に敵に対する認識として通知しなければならない(pp.4-4-4-5)
➣レッドセルは敵のように思考しなければならず、MLCOA(最も可能性のある敵の行動)とMDCOA(最も危険な敵の行動)をリアリスティックに評価しなければならない。また、レッドセルは敵の立場で勝つために戦わなければならず、非対称戦のアプローチを考慮しなければならない。そして、その行動や反応は個々の敵の既存の能力に基づいたものでなければならず、味方部隊の採り得る対応によって再検討されなければならない。レッドセルは我に対する敵の反応に関する見積り関してだけ責任を負うのだけでなく、我の行動の効果や敵の損失の程度を評価することにも責任を負う(p.Q‐1‐1)

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# by Imperialnavy | 2016-08-16 10:05 | 作戦・戦術インテリジェンス | Comments(0)
2014年 08月 06日

人民解放軍初の兵棋システム?

中国網 7月23日「解放軍初の大型兵棋演習システム、「兵棋」が開発」
http://japanese.china.org.cn/politics/txt/2014-07/23/content_33034425_5.htm

「7年をかけて開発された中国初の大型コンピュータ兵棋演習システム、戦争の勝利の秘訣を教える「兵棋」は未来の勝利に向けて、現代の戦争をありのままコンピュータに移し、中国軍の特徴と未来の戦争の実情に合ったバーチャルの戦場を構築する。実戦に限りなく近い兵棋演習により、中国軍が未来の戦争で勝利を収める可能性が高くなる。これは兵棋演習の魅力だ。」

掲載されている写真をみると国防大学に設置されたようです。国防大学については、下記の記事が参考になります。

「国防大学は中央軍事委員会に直属する人民解放軍の最高学府として、将官昇任予定者及び大軍区等指揮官さらには中央・地方政府の閣僚級高級官僚に対する教育を行う教育機関である。また、人民解放軍の最高シンクタンクとして中央軍事委員会及び4総部2への政策提言機関でもある。」
(山本勝也「防衛駐在官の見た中国 (その1)-人民解放軍国防大学への留学-」http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-007.html より)
ということは軍種を超えた国家、軍事戦略レベルのシミュレーションを行うということですね。

ちなみに他ブログの記事によると最近、「中国はY-20輸送機を最大400機まで調達すべき」との主張を含む軍民統合の理論と実践についての報告書を出したそうです。
(海国防衛ジャーナル http://blog.livedoor.jp/nonreal-pompandcircumstance/archives/50732397.html より)
おそらくこうした軍事理論の検証にもこのシステムが使われるのでしょう。

それにしても初とありますが、これまでこうしたシステムは無かったのでしょうか?それともスーパーコンピュータでも使った画期的なシステムという意味での「初」なんでしょうか?あと、2番目に掲載されている写真を見ると「島」を巡るシミュレーションのようにも見えますが気のせいでしょうか・・
いずれにしても興味深い記事です。

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# by Imperialnavy | 2014-08-06 21:26 | 戦略インテリジェンス | Comments(0)
2014年 07月 03日

フォークランド紛争時のイギリスの失敗

「第3章 サッチャー政権以降のイギリス・アルゼンチン関係」『フォークランド戦争史』防衛研究所 http://www.nids.go.jp/publication/index.html 39〜40頁の要約

◆アルゼンチン外務省は「イギリス側に解決の意思がない場合、交渉を諦め自国の利 益のため今後あらゆる手段を取る」と警告を行った。しかしイギリスの合同情報会議での結論は、外交交渉が続いている限りアルゼンチンが極端な行動には出ることはない、というものだった。
◆イギリス国防情報本部もアルゼンチン海軍の強硬的な姿勢はいつものこと、という判断であった。このようにイギリスの情勢判断はかなり楽観的なものとなっていた。
◆ブエノスアイレスのウィリアムス大使は、イギリスがアルゼンチン側の要求を受け入れなければ、3 月中の武力行使もありうると警告していた。しかし大使館からの警告は度々のことであり、同大使館はオオカミ少年と見なされていた。そのためロンドンは本腰を入れた対応を怠たってしまった。

結局のところ過去の事例をもとに楽観的な分析をすることは危険だ、というありきたりの教訓ですが、島嶼防衛が問題となっている我が国にとってはとても参考になる事例ですね。我が国のインテリジェンスにもオオカミ少年のように警告する組織があるのかどうかは分かりませんが、カスタマーはそうした警告を馬鹿にせず、警告に基づくあらゆるシナリオを想定して対応を考える必要があるのだと思います。他方、警告する側においては、オオカミ少年とみなされないように、極力、タイミングと情報の精度を見極める努力を怠らないことが肝心なのでしょう。

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# by Imperialnavy | 2014-07-03 18:04 | インテリジェンスの失敗 | Comments(0)
2014年 07月 03日

作戦レベルとインテリジェンス

エドワード・ルトワック『エドワード・ルトワックの戦略論 戦争と平和の論理』毎日新聞社、2014年

174頁「兵器そのものは戦略の技術レベルで相互作用し、直接的に対峙する軍は戦術レベルにおいて交戦する。しかし、作戦レベルにおいて初めて、二つの相争う意思の闘争に遭遇するのである。」

このことはつまり、作戦レベルのインテリジェンス(作戦インテリジェンス)においては、「敵の意思」が分析の焦点となるということです。

181頁「自らが目下の敵よりも物量面で勝っていると判断した国家や軍隊は、判断の正誤はともかく、消耗という信頼できる手段を一般的に選択するであろう。」「これに対して、物量面で劣っていると考える側、あるいは成功した場合も消耗による犠牲者を恐れる側は、その判断の正誤にかかわらず、敵の脆弱性を明らかにしようとする。」「消耗を指向する側は主に攻撃の目標を探すために、敵の性質については真剣に考慮しない。他方、機動を指向する側は敵の脆弱性を探るためにその内部の機構を理解しようと試みる。」

防御側の方が敵の能力や意図をより詳しく分析する傾向があるということでしょうか。確かに過去エントリで紹介したように、ミッドウェー海戦前の米海軍は日本海軍の能力や意図を徹底的に分析してましたね。
ただ、一方で劣勢で機動を指向する側でありながら、敵の脆弱性や内部機構を理解しようせず、敗北した軍隊もありましたが・・・
劣勢であるならば、少なくともインテリジェンスだけはしっかりやってほしいものです。


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# by Imperialnavy | 2014-07-03 15:37 | 作戦・戦術インテリジェンス | Comments(0)